修了を前に 大島 梓
自己紹介
大島 梓(Azusa Oshima)
2017年4月博士課程前期入学、2019年3月修了
修士論文タイトル:バングラデシュのNGOにおける人身取引サバイバー支援に関する研究―教育的側面に着目して―
IDECに入学したきっかけ
高校・大学と7年間女子校で過ごす中で、授業やサークル活動で開発途上国について学ぶ機会が多く、途上国の持つ可能性に漠然と興味を持っていました。また、先進国である日本における女性の貧困やそれに付随するセックスワーク、子どもの貧困にも興味を持っていました。大学3年生のときにアメリカのドキュメンタリー番組の制作会社が作った、バングラデシュの売春窟の現状を撮ったドキュメンタリーで、女の子の貧困とセックスワークの関係性やそれに付随する人身取引という問題に強い関心を持ちました。人身取引の中でも性的搾取を目的とした人身取引であるSex Trafficking(性取引)に注目し、あらゆる形の教育がそれを根絶する一つの鍵ととらえ、それを卒業論文の研究テーマとしました。当時はバングラデシュ国内の治安が安定していなかったことから、調査のための渡航は諦め、文献論文として卒業論文を仕上げましたが、フィールド調査をして論文を書きたいという気持ちが強く、大学院でも引き続き同様のテーマで研究を続けることにしました。研究室を選んだ理由としては、バングラデシュに行ったことがなく、研究活動に不安があったため、バングラデシュの研究を長年行っている日下部先生の研究室で学べればと思い、入学を決めました。
IDECでの生活
M1の夏に約2ヵ月間、広島大学に在籍する大学院生向けの海外インターンシッププログラムであるG.ecboプログラムを利用して、インドやフィリピンで活動しているIMAGINUSというNGOでインターンシップを行いました。私にとって初めてのインドであり、海外で1週間以上滞在するのも初めてのことでしたが、私が滞在した西ベンガル州という土地は私にとても合っていて、楽しく充実した日々を過ごすことができました。朝起きてから夜寝るまで、ずーっと試行錯誤しながら生活したりインターンワークをしたりという経験は私の中でとても特別な経験になっていて、漠然と、これから先もインドやバングラデシュなどの南アジアの国々と関わっていきたいなと感じました。たぶん当時はもっと色んなことを考えていたのだと思いますが、今は毎晩通ったレストランのご飯がもう一度食べたいということしか思い出せません。
1年後のM2の夏にはバングラデシュで修士論文のためのフィールド調査を行いました。私は自分の研究において、サバイバー(人身取引被害に遭った後、その被害経験を乗り越えた人や乗り越えようとしている人を指す)の多様性を見ることを重要視していました。それは、私自身が女子校で過ごしてきた7年間は、誰一人として「私はこういう人間」と私の一面だけを掬って表現する人がおらず、私のどんな側面でも受け入れてくれた環境であり、それによって私自身の能力や可能性を最大限発揮することができたと感じていたからです。サバイバーも被害者という側面を持ちながらも、でも24時間365日被害者ではなく、友達と一緒にはしゃいだり、喧嘩したり、と色々な側面を持っていて、私はその多様的な側面を大切にしたいと考えていました。フィールド調査ではその考えを理解してくれた複数のNGOをターゲットとし、サバイバーやNGOスタッフにインタビュー調査を行いました。言語もままならない中で、自分なりに精一杯、目の前のサバイバーに向き合えたかなと感じています。卒業論文の頃やM1のときは、たくさんの人身取引ケースを見て、自分と近い年齢の女の子が想像を絶する経験をしていて、怒りの矛先をどこに向けていいか、誰のために泣いたらいいかわからなくて精神的に辛くなるといつもバカリズムのネタ動画を見て回復して、また頑張ろうと思い直す、というのがルーティンでしたが、実際にサバイバーの女の子と会うと、悲しい話をしてもちょっと時間が経つと一緒に遊ぼうとかご飯食べようとか色々と誘ってくるのでサバイバー自身のパワーをたくさん感じました。論文を読んだだけでは見えてこない側面を見て聞いて感じることができたフィールド調査は私にとってとても有意義で実り多いものでした。
大学院で学ぶことは私にとって夢の一つでしたが、修了を目前にした今でも夢のような2年間だったなと思います。IDECに入学する前はインドやバングラデシュに一人で行ってフィールドワークをすること、それを基に修士論文を書き上げること、多くの留学生と共に授業を受け、英語で円滑な議論を行うこと、が果たして自分にできるのだろうかと思っていましたが、実際なんとかできてしまったという感じです。でもこれは私一人の力ではなく、色々な場面で色々な方々に支えていただいたからできたことでした。周囲の方々には感謝してもしきれません。大変なこともたくさんあったけど、諦めなくて良かったと思える2年間でした。
卒業後の進路
バングラデシュやインド、ネパールといった途上国でものづくりを行っているアパレル企業に就職します。就職活動の際には様々な企業を見ましたが、大好きなインドやバングラデシュといちばん近いところで一緒にビジネスができるのはこの会社しかないと思い、就職を決めました。まだ広島に店舗を持っていないので、数年以内に広島に出店し、広島に戻ってくるのが目標です。
今後の学生へのメッセージ
大学院の数年間は長いようであっという間に過ぎてしまいます。どう過ごすかは人それぞれですが、私は自分で考えて試行錯誤して頑張っていくことは、必ず成長の糧になると信じています。IDECという場所はかなり特殊な環境ですが、本当にたくさんの経験ができるところです。その中で自分で考えて試行錯誤して頑張っていくことで大きく成長できると思います。応援してます!